ベンチャー育成・競う関西の大学
-専門講座 相次ぎ開設 横断的連携探る動きも-

日本経済新聞 1998年8月6日掲載


関西の大学がベンチャー企業(VB)の創出・育成支援に力を入れ始めた。
起業家養成講座を相次いで解説、VBとの連携も加速させている。
少子化に伴う学生数の減少などで経営環境が悪化した大学は特色づくりに懸命で、VB育成をその柱の一つに据えようとしている。各大学が競ってVBを支援すれば、経済活性化に役立つと期待する向きもある。

「一年前までベンチャーキャピタル、ビジネスプランという言葉すら知らなかったのに、講座終了から半年で起業するとは。」保険代理店を営む田村俊和氏はそう言って笑った。

地域貢献に一役
 田村氏は十月、大阪市内でVBを立ち上げる。インターネットで損害保険や生命保険の商品情報を提供、ネット上で消費者が保険を選び、契約できるシステムの開発と販売だ。温めてきた構想を事業家するきっかけは、大阪大学の公開講座への参加だった。
 昨秋、阪大経済学部は国立大学で初の起業家向け講座を開いた。期間半年で、事業計画の作成方法からマーケティング、資金調達を、阪大の教官やVB支援の専門家らが十六回にわたって講義、約二百人が聴講した。田村氏は講座で自らの構想を事業計画として発表、優秀賞を受けた。講義終了後も講師らとの議論を通じ事業計画を練った。

 阪大は今年も十月から半年間、さらに内容を充実したVB講座を開く。学部級から大学院級に水準を上げ、受講者が提出した事業計画を講義後に議論するなど実践性を高めた。責任者の小林敏男助教授は「講座は開かれた大学のモデル。人材育成を通じ地域貢献を果たしたい」と意気込む。

工学系も”参入”
 近畿通産局が三月にまとめた「企業を担う人材の育成システムに関する調査研究」報告書によると、九七年度に関西でVB講座を開いたのは、阪大以外に神戸、同志社、立命館、龍谷の四大学。九十八年度には大阪商業大学と京都大学もVB講座開講に”参入”した。
 京大大学院工学研究科は博士課程にVB講座「新産業創成論」を開き、四月から七月に十三回の講義をした。弁理士による知的財産権問題の講義やVB経営者の企業体験談、経営学系の教授によるベンチャー起業論などで、工学研究科の大学院生を中心に約八十人が聴講したという。
 経済学や経営学系の学部・大学院が開くケースが多いなかで、工学系大学院の開講例は移植。「研究施設は充実しているが、起業精神に富む人材を育てる体制がない」(松重和美教授)との反省から、「経営の分かる技術者の育成」を目指す。

組織弊害是正も
 ただ、相次ぐ関西の大学のVB講座も、総じて実施主体は各学部・研究科単位にとどまっている。同じ大学内でも学部間の交流が乏しい。VB家遺影には先端技術に限らず、資金調達、組織運営など幅広い知識やネットワークが求められる。バブル崩壊後の日本のVBブームが曲がり角を迎えている一因には、そうした人材やネットワークの不足がある。
 阪大大学院経済学研究科は来年度、学内外の多様な機関・人材と連携し教育・研究を進める機関として「OFC(経済大学院開放センター)」の解説を目指す。テーマの柱はVBに関する教育・研究だ。「OFCができれば、自然と理工系大学院との連携が進む」(小林助教授)。VB育成に向けた大学の試みは、縦割り型の大学組織の弊害の是正にもつながる。

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